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『まさか我が家が…』住宅ローン破綻寸前、”既存不適格”の壁に阻まれた夫婦の絶望と、最後の光

ケンジとユウコ夫婦にとって、あの家は単なる住まいではなかった。結婚10年目でようやく手に入れた、希望と未来が詰まった城。週末には庭でバーベキューを楽しみ、将来生まれてくる子供たちの部屋を夢見ていた。しかし、数年前から続く経済の停滞、ケンジの会社での予期せぬ配置転換による収入減が、少しずつ、しかし確実に、彼らの生活を蝕んでいった。

最初は節約で乗り切れると信じていた。外食を減らし、趣味を諦め、光熱費もギリギリまで切り詰めた。だが、住宅ローンの返済だけは、容赦なく毎月彼らの口座から引き落とされていく。通帳の残高が減るたびに、ユウコの胸は締め付けられた。「このままでは、いつか本当に破綻してしまう…」。夜中に目が覚めては、天井を見上げて不安に震える日々が続いた。

藁にもすがる思いで、二人は弁護士の元を訪れた。「競売は避けたい」という切実な願いに、弁護士は「任意売却」という選択肢を提示してくれた。通常の市場で売却することで、競売よりも高値で家を手放し、残債を減らせる可能性があると聞き、二人の心に久しぶりに一筋の光が差した。「これで、なんとかやり直せるかもしれない…」と、ケンジは固く握りしめたユウコの手をさらに強く握った。

しかし、その希望は、あまりにも残酷な形で打ち砕かれた。任意売却を進める中で、不動産会社から告げられた衝撃の事実。「お客様のお宅は、『既存不適格』物件です」。ケンジとユウコは、その言葉の意味がすぐに理解できなかった。弁護士からの説明で、彼らは目の前が真っ暗になった。建築された当時は適法だったが、その後の法改正により現在の建築基準には適合しない物件。つまり、買い手が見つかりにくい、融資がつきにくい、通常の市場ではほとんど価値がないに等しいというのだ。

「まさか、我が家が…」ユウコの心の声が響く。長年住み慣れた、愛着のある家が、突如として「問題物件」の烙印を押されたのだ。何度も内覧に来る不動産会社の担当者は、その度に首を横に振る。「やはり、この条件では…」。その言葉を聞くたびに、ケンジは深い無力感に襲われた。競売開始決定の通知が届くまでのカウントダウンが、彼らの精神をじりじりと削っていく。「もう、どこにも逃げ場がないのか…?」「この家は、私たちを縛る呪いなのか?」夜な夜な、二人の間には重苦しい沈黙が横たわった。夢にまで見たマイホームが、今や彼らを追い詰める檻と化していた。

一般的な不動産仲介では、どこも門前払い。焦燥感と絶望が入り混じる中、弁護士が提示したのは、最後の、そして唯一の希望だった。それは、既存不適格物件や、再建築不可物件など、特殊な事情を抱える不動産を専門に扱う業者への相談。通常では買い手が見つからない物件でも、彼らは独自のルートやノウハウを持っているという。価格は市場価格よりも低くなるかもしれない。しかし、競売で二束三文になるよりは、はるかにましだ。

ケンジとユウコは、再び顔を上げた。この困難は、彼らに「常識にとらわれない解決策」を探すことの重要性を教えてくれた。家を失う恐怖の先には、きっと新しい人生が待っている。今はまだ、その道のりは険しい。だが、絶望の淵から見つけた小さな光を信じ、二人は手を取り合い、一歩を踏み出す決意を固めたのだ。