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認知症の共有名義人がいる実家、売却できない絶望からの脱却

母の実家を売却しようと決めたあの日から、私の心には重い鉛がのしかかっています。母は売却に同意してくれたものの、もう一人の共有名義人である叔母が認知症を患い、意思確認ができない状態。「このままでは、実家は永遠に売れないのではないか…」そんな絶望感が、私の思考を支配していました。

毎週のように不動産情報サイトを眺めてはため息をつき、空き家になった実家の固定資産税の請求書が届くたびに、胸が締め付けられます。築年数の古い家は修繕も必要で、その費用もまた、私にのしかかる重荷でした。「もうダメかもしれない…なぜ私だけが、こんな複雑な問題に直面しなければならないのだろう?」夜中にふと目が覚めると、天井を見つめながら、出口の見えない迷路にいるような孤独感に苛まれました。

一般的な不動産会社に相談しても、「共有名義人が認知症では、意思確認ができないため売却は難しい」の一点張り。成年後見人制度の利用を勧められましたが、その手続きの煩雑さ、時間、費用を考えると、さらに深く絶望の淵に突き落とされた気分でした。まるで、目の前に巨大な壁が立ちはだかっているのに、登るための梯子も、迂回するための道も見つからないような心境です。このままでは、実家は負の遺産として、私たち家族の未来に影を落とし続けるのではないか…そんな不安が募るばかりでした。

多くの人が「認知症の共有名義人がいるから売れない」と諦めてしまうのは無理もありません。しかし、その諦めが、実はさらなる経済的・精神的負担を生む悪循環の始まりなのです。空き家になった実家は、固定資産税や管理費がかかり続けるだけでなく、老朽化が進めば資産価値は下がり、最悪の場合、特定空き家として自治体から指導を受ける可能性さえあります。

「いつか、状況が変わるかもしれない…」と期待していても、認知症の症状が自然に改善することは稀です。時間は刻一刻と過ぎ去り、その間にも、あなたは無駄な費用を支払い続け、心の重圧に耐えなければなりません。この「動けない」という状況は、単に不動産が売れないという問題に留まらず、あなた自身の生活や家族関係にもじわじわと悪影響を及ぼしていくのです。過去を後悔し、未来を不安視する悪循環から抜け出すためには、現状を正確に把握し、具体的な一歩を踏み出す勇気が必要です。

しかし、絶望する必要はありません。認知症の共有名義人がいる不動産売却は、確かに複雑ですが、適切な知識と専門家のサポートがあれば、必ず道は開けます。重要なのは、この問題に特化した解決策を知り、一人で抱え込まないことです。

成年後見人制度は、認知症などで判断能力が不十分な方を法的に保護し、財産管理や契約行為を代行する制度です。確かに手続きは複雑に感じられますが、司法書士や弁護士といった専門家のサポートを得ることで、その負担は大きく軽減されます。彼らは書類作成から家庭裁判所への申し立て、後見人選任後の手続きまで、一貫してあなたを支えてくれます。後見人が選任されれば、その方が叔母様の代理として売却の意思表示を行うことができるようになり、法的に正当な形で売買契約を進めることが可能になります。これは、法的な「お墨付き」を得るための最も確実な方法と言えるでしょう。

認知症発症前であれば、家族信託という制度も有効な選択肢となり得ました。これは、特定の財産(この場合、実家)の管理・処分を信頼できる家族に託す契約です。残念ながら、既に認知症が進行している場合は利用が難しいですが、もし将来的に同様の問題が起こりうる家族がいる場合は、早めに検討しておく価値があります。この制度は、柔軟な財産管理を可能にし、将来のトラブルを未然に防ぐための強力なツールとなります。

最も効果的なのは、不動産売却、法律(司法書士・弁護士)、税務(税理士)の各専門家が連携し、あなたの状況に合わせた「ワンストップ」でサポートしてくれる体制を見つけることです。彼らはそれぞれの専門知識を持ち寄り、共有名義、認知症、売却という三つの課題を複合的に解決するための最適な戦略を立案します。例えば、認知症の共有名義人がいる不動産の扱いに慣れた不動産会社、成年後見制度に詳しい司法書士、売却後の税金対策に強い税理士がチームを組むことで、あなたは安心して手続きを進めることができるでしょう。

実家が売れない問題は、決してあなた一人の責任ではありません。しかし、その解決の糸口を見つけ、未来への一歩を踏み出す勇気は、あなたの手の中にあります。一人で抱え込まず、専門家の知恵を借りることで、長年心を蝕んでいた重圧から解放され、新たな未来を切り開くことができるでしょう。

諦めずに、まずは専門家への相談から始めてみてください。それが、あなたとご家族の未来を明るくするための、最初にして最も重要な一歩となるはずです。